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あるお母さんの応援メール(その1)
H・S君のお母さん

金沢方式ではお母さんが言葉のトレーニングしていきます。
先生に見ていただくのは、2週間から1ヶ月に1回の頻度です。
毎日先生と一緒にトレーニング、というのではないので、お母さんの創意、工夫によるところが大きいです。
従って、お母さん達は、お互い連絡を取り合い、情報を交換、励まし合って子供をトレーニングしています。
特に、初めて間もないばかりのお母さんには、同じような聴力、環境の先輩お母さんから、応援メールをもらうこともあります。
下記の文章は、ある5才の難聴児(診断時裸耳:右115dB、左120dB、現在人工内耳装着:40dB)のお母さん(Hさん)が、金沢方式を始められた ばかりの1歳11ヶ月のお母さん(Aさん)に送った応援メールです。(ほとんど原文のまま。名前は仮名にしてありますが、ご容赦下さい。)

Hさんは金沢から約500km離れたところにお住まいですので、これを前提にお読み下さい。

A様

先日メールを送りました、Hです。

こんにちは。
今日は息子のSについて、お話しします。
お忙しいでしょうから、 読んでいただけるだけでいいです。
Sの難聴が判ったのは、1才6ヶ月の時。
こども病院で難聴が判り、難聴専門の個人病院で 「難聴でも、大学まで行く人もおる。 希望を捨てちゃいかん。」 といわれて、びっくりしました。
そして、夫の取り寄せた資料を山ほど読みました。
Sの90デシベル以上というのは、高度難聴に属すること。
補聴器をつけても子音が聞こえにくいこと。
ほっておくと、正確な日本語が入らないこと。
「9才の壁」という言葉があります。
先天聾の場合、日本語能力が9歳ぐらいにしかならないと、以前はいわれていました。
でも、今は教育によって「9才の壁」を越えて行く人がいます。
「希望を捨てちゃいかん。」とは、このことを指していたのでしょう。
聾学校についても、手話についても、読みました。
Sにとって、何が一番いいのかしら。
Sは、1才7ヶ月の時に、 はじめて金沢大学附属病院を受診しました。
それから、5歳8ヶ月になる現在まで、 毎月、遠距離通院しています。
金沢に通い始めて、最初の課題は、
ジェスチャーで判る言葉を増やすこと。
そして、ジェスチャーで理解できた言葉を、文字でも判るようにすること。
そこで、我が家ではまずカードを作りました。
デジカメで写真を撮り、葉書サイズの紙に、表に文字、裏に写真と文字を 印刷しました。
そして、先生のご指導に従って、
「自動車」、「お風呂」、「補聴器」、「ごちそうさま」 のカードの文字だけを見せて、自動車どっち?お風呂どっち? とママがジェスチャーできき、合った文字を取らせるようにしました。
(このとき4枚から選ばせるようにしていたのですが、 後で小さい子供に4択は無理であることを知りましたので、 その後すぐ、2枚から選ばせるように、変えました。)

始めのうち、Sは、何でもいいからカードをとれば、 誉められると思ったようです。
でも、Sがでたらめに取るので、正しいカードだったり、間違いだったり。その度に、ママに誉められたり、誉められなかったり。
Sは、訳が分からず、よく怒ってカードを投げました。
また、投げたカードを踏みつけたりも、しました。
そうすると、ついつい私も腹が立って、Sを叩いてしまったりして…。
3ヶ月間、「聴力障害がなければ、こんなに親子共ストレスのかかることを しなくていいのに。」と思いながら続けました。
今思い返しても、文字の区別がつかない数ヶ月が、一番大変だったと思います。
つらくて、どうしていいか判らず、能登谷先生に直接メールを送り、 何度も励ましていただきました。

そして、3ヶ月位たった頃(1才10ヶ月)、 「補聴器」の文字カードが、他のカードと区別でき、ママが ジェスチャーをすると、Sはカードの文字だけの面を見て、正しいカードを 選べるようになりました。
そのころはまだ、カードの文字だけでなく絵も、あまり見てくれませんでした。
そこで、デジカメで撮った本人の写っている写真を利用しました。
帽子の文字と、Sと姉が帽子をかぶっている写真。
お風呂の文字と、お父さんとSがお風呂に入っている写真。
覚えていないカードはそのころから、壁に文字の面を表にして貼って ありました。
最初あんなに嫌がっていたカードなのに、自分が写っているカードは、 時々自分から見るようになりました。

また、楽しかった写真に、文字をつけて、親子で「楽しかったねー」と、 見るのがいいと聞いたので、デジカメで写した写真と文字をA4の紙に印刷し、 綴じて、アルバムを作り、本を読むように、毎日寝る前にごろんと横になって 二人で眺めました。

ジェスチャーを交えて、のんびり本を見るのは楽しいらしく、 毎日続けることが出来ました。
「ジェスチャーを覚えているものは、文字も覚えやすい。」ときいていたので この時、ジェスチャーを見せながら、一緒にアルバムを眺めたように 記憶しています。
数ヶ月に1回、教材作りという名目で、 動物園やサファリパーク、キャンプ、飛行場、サーカス、 いろいろなところへ連れていって、
見せて、動物に触らせて、写真を撮って、
本のように綴じて、何度も見る。
また、日常生活の中でも写真を撮る。
その写真を利用して、カードを作る。
その繰り返しでした。
そのうちに、Sの方から、アルバムやカードをママの所へ持ってくるように なりました。
また、図鑑や姉の絵本を自分で開くようになりました。
そして、知っているものを見つけると、得意げにジェスチャーをしてみせる ようになりました。
文字の学習に使っているのと同じカードをもう一部作り、カードホルダーに 入れて、寝る前に、本の代わりにカードを一緒に眺めるようにもしました。
寝る前の本読みは楽しい習慣になっているらしく、やっと、遊びながら 文字を勉強できるようになりました。
(クイズのように「これ、なーんだ?」としても、寝る前だと楽しいようです。)

覚えたカードは、沢山、文字の面を表にして、Sの目の届くところに 貼ってありましたが、このころ、
「これ何の文字だったっけ?」
とでも言うように、Sが自分でカードをめくって眺めたりするようにも、 なりました。
また、ママが質問して、正解の文字を取れて、そのカードを裏返し、 裏の写真で自分でも「正解がとれた」と判るとうれしそうになりました。
文字を覚え始めたときからは、考えられない変化です。
文字を覚え初めて、半年くらいたった、このころから、ぐっと文字理解が 進んだように思います。

この四年間の記録を見返すと、この言葉を教えようと思い立ってから、 Sがその言葉を理解し、覚えるまで、早くても二ヶ月くらいかかっています。
理解語彙数が増えて、ママが書いた文を、子供が理解できるようになると、 話が通じるようになり、とてもらくになります。
そうなるまでは、多くの時間と根気が必要で、必ず毎日、気楽に、 こつこつ勉強するしかないのかなー。

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