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健常児の言語発達

健聴児におけることばの発達の早さには、目を見はらせられます。

たとえば、2歳児を想像してみてください。日常使用される基礎的な単語はすでに獲得していますし、時には驚くほど難しい言い回しを使います。

また、日本語の文法の規則にしたがってしゃべることができます。

ことばで、大人をからかったり困らせたりすることもできます。

一体、健聴児はどのようにして、この難しい日本語を獲得するので
しょうか。

1.新生児

生後12時間たったばかりの新生児が、英語・中国語などの言語音を
聞かされると、言葉の場合は言語によらず、音節の切れ目に同調した
リズムで身体の一部を動かすことが判っています。しかもこの現象は、ブザーなどの合成音では起きないとのことです。
この現象が、胎内での言語音の学習によるものか、遺伝的に規定されているのかまだ判らないとのことですが、人間は生まれたときから言語音に対して反応する準備ができているようです。

2.0歳代

生後3カ月ごろには機嫌のいい時にアー、ウーなどの声を出すようになります。さ らに、生後6カ月ごろには、バブバブやアバアバなどと盛んに
"お話し"をする ようになります。この時期が、ことばの発達過程における指標として大切な哺 語期(なんご)です。

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3.音声言語の発達

理解できる語彙数
0歳後半ですでに、いくつかの単語を聞いて理解できるようになっています。
1歳になると、目前にない物に関する簡単な命令にも従うことができ、絵本に興味を持ち始めます。
2歳では位置関係を表す単語、色彩に関する単語、大小や長短を表す単語など、具体的な名詞や動詞以外の単語を理解するようになります。
3歳では、物語りを聞くことに興味を持つようになり、4~5歳では、さらに抽象的な単語や表現も理解できるようになります。
言える語彙数
1歳代では、通常、数十語といわれていますが、1,000語以上という観察結果もあります。
2歳になるとさらに語彙数が増し一つの文を構成する単語の数や種類も増加します。
3歳になると過去や未来に関する基礎的な表現ができるようになり、 4~5歳ではことばのゲームを楽しんだり、自分の考えをことばで的確に 表現することもできるようになります。

当然のことですが、理解できる語彙数と言える語彙数の発達を比べると、 "理解できる"ことが常に"言える"ことに先行します。したがって、 会話の中にある単語を正しく使えるようになるためには、その単語の意味を 必ず理解していなければなりません。

下のグラフは、幼児の認識語彙数ですが、

語数=年齢×年齢×100

が目安になるようです。

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4.文字言語(書きことば)の発達

健聴児では一般に、平仮名が1文字ずつ音読できるようになり、 それと
同時か直後に、平仮名で書かれた単語の読解が可能になります。
周囲の人が意図的に文字を教えなくても、自然に3~4歳から文字に興味を持ち出し、 自発的に文字を獲得してしまいます。

そして、就学時までに、ほとんどの健聴児が幼児用絵本に書かれている文字の 音読・読解がなんとかできるようになります。書字についても
同様に、健聴児 は自然に学習し、多くの子どもが就学時までには、
平仮名で自分の名前をかく ことができます。

健聴児におけるこのような自然な文字言語の学習は、音声言語を介して行われます。 すなわち、音声言語の理解や表出が可能となってから、
文字言語の音読や読解、 書き取りや自発書字が可能になるという順序をとります。

また、従来、下の(1)、(2)ができるようになる時期と、 ひらがなが読めるようになる時期が一致することが知られていました。
(音韻的理解と言います。天野、1986)

  (1)ある単語をモーラ(拍)に分けることができる。(モーラについてはこちら)
     トコヤ(床屋)をト/コ/ヤと分けて言えること。
  (2)その単語に含まれるモーラ(拍)を取り出して言うことができる。
     トコヤにコの音が含まれているか、言えること。

このため、聴覚障害児についても、文字を教える前に、まず口話やキュー、指文字で 音節(ひらがな)に対応する言葉の体系を作る必要がある、 と思われてきました。

ところが、日本語には、ひらがなと漢字があります。

確かに、日本語の文字のうち、ひらがなは音を直接表すものですが(表音文字)、 漢字は意味を表すので(表意文字)、音と直接は結びついていません。

一方、漢字は一見複雑そうですが、かえって識別しやすいのです。そして具体的な意味や内容を表わしていますから、幼児には絵を見るのと同じように理解されるわけです。つまり、“目”で理解する言葉(視覚言語)が漢字なのです。

一方、ひらがなやカタカナは抽象的で、一字一字には何の意味もありません。ひらがなは、順序で意味を表します。従って、 「ミルク」と「くるみ」は、おなじ「み」、「る」、「く」という音からなるのに、意味の異なる言葉になります。これは、耳で理解する言葉(音声言語)には 適しています。

健常児はすでに覚えた音声言語から文字を読む学習へ進めるので、平仮名でもよいのですが、聴覚障害児は先行する音声言語が少ないので、意味、手がかりがある漢字から入った方がよいのです。

記憶する能力の盛んな幼児期には、順序を覚える必要のあるひらがなやカタカナより、漢字の方がずっと、憶えやすくて、興味のもちやすい文字なのです。

これは、例えば、大人でも、「熊」という漢字と「くま」というひらがなを見たとき、どちらが実物をイメージしやすいか、考えてみれば判ります。

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なお、欧米の言語においても、人が文を読むときには、アルファベット一文字ずつを認識しているのではなく、 単語ひとかたまりの形として認識していると言う説もあるようです。

これはまた、手話で「コップで水を飲む動作」が「飲む」という言葉になるのと 類似しています。

聴覚障害児についての金沢方式の臨床経験から、文字言語の操作には、 必ずしも音声言語の知識が必要ではないと言えます。 すなわち、
音声言語の能力を伴わない文字言語の理解や表出は可能なのです。

「幼児にとって、ひらがなより漢字の方が識別が容易」ということを健聴児の国語力向上に応用しているところがありました。漢字混じりの絵本なども売っており、金沢方式での教材に使っているお母さんもいるようですので、リンクをあげておきます。

石井式国語教育研究会

リバーホエール絵本館

5.言語を習得できる時期は制約がある

このように、子供は生まれついたときに、すでに言語を習得できる準備ができており、6年程度で日本語の流ちょうな使い手になっていきます。
ところが多くの大人が外国語で苦労しているからわかるように、ある年齢を超えると言葉の習得は困難になるようです。

第二次世界大戦中に疎開した子供達が「方言を使えるようになったか」、という調査から、方言をしゃべれるよぅになる時期の上限は12、13才頃までであることが報告されています。

また、韓国や中国からアメリカに移住した人々が10年以上たった後、英語をどの程度習得できたか、と言う調査から、3才から7才までに渡米した人は、英語 を母国語とする人と変わらないのに対し、8才以降では文法の間違いが多くなることが報告されています。これは、第二外国を勉強する際も、母国語と同様に、 言葉を習得するのが容易な時期があることが判ります。

ろう児の手話習得についても、12才以降に文法を習得するのは困難、という報告もあります。

一方、幼児期初期に米国に移住した幼児、小学生を対象にした調査では、会話のみで言語を習得した場合は文法の誤り(英語の複数形-sや-esが脱落する割合)が母国語話者と比べて劣ることが報告されています。

一方、この文法規則の習得には、英語で読み書きするかが効いている、との報告もあります。すなわち、学校で文章を読んだり書いたりする学習の役割が大きいとのことです。

このことは、音声言語の習得にも、読み書きが大きく影響を与えていることを示唆しています。

このように
音声言語を習得できる時期には限界があり、7歳程度が限界であること、
音声言語を正確に習得するためには、音声言語を学ぶだけではだめで、書記言語が必要であると言うこと
は、難聴児の言語習得を考える上でとても大切なことですので、覚えておいてください。

6.正常な言語発達に必要な条件

言語が問題なく発達するためには、一般に次のような条件が必要といわれて います。

(1)子どもの側の条件

聴覚が正常であること
周囲の音や声に対して興味をもつことは非常に重要なことで、この興味が始 語の出現へとつながるのです。

人に対して興味を持っていること
音声言語は、人の話しことばを聞いて獲得していくものであるので、 耳が聞こえるばかりでなく、人に対する関心も育っていかなければなりません。

人に対する興味は、自然に発達するものではありません。養育者(ほとんど の場合、母親)にあやされることによって、"人と緒にいることは楽しいことだ"と感 じるようになります。養育者は、子どもとの楽しい接触時間を多く持つことに よって、子どもの心の中に、"人に対する関心"を育てることができます。

知能の遅れがないこと
言語発達と知能の発達とは密接に関連しています。知恵遅れの子どもはすべ て、程度の差はあるにせよ、言語発達の遅れを示します。知恵の発達に遅れが ないことは、言語が正常に発達するための重要な条件のひとつです。

発声器官に麻痺などがないこと
音声言語の表出は、言語の発達過程の中で重要な位置を占めます。

もし唇や舌に麻痺があれば、発音が障害され、そのために音声 言語の表出が十分に習得できない可能性が生じます。しかし、どの程度の麻痺 によって、言語発達のどの側面がどの程度遅れるのかは、まだ研究されていま せん。

(2)周囲の条件

言語が正常に発達するためには、子ども自身の条件のみならず、子どもを取 り囲む周囲の条件も考えなければなりません。子どもの周囲の条件としてもっ とも重要なのは、子どもが音声言語を十分に聞ける環境で育てられているかど うか、ということです。

つまり、養育者が子どもにたくさん話しかけているか、 話しかけることばが子どもの興味を引くかなどが、音声言語の発達を促進する 上で、基本的な条件となります。話しかけの量が少なかったり、話しかけ方が 適切でないというだけで、子どもの言語発達は遅れる可能性があります。

豊かな言語環境のために、次のようなことが提案されていますが
(大久保)、この環境を作るためには、 口頭の会話だけでは無理であり、文字が非常に重要であることが判ると思います。

要求や命令語などの多い日常会話のみでなく、自然のこと、心の内部のこと、文化的話題などを話題にする。

一語文ではなく、整った文で話す。どこで(場所)、何が(対象)、どうしたか(述部)を落とさずに、相手によく伝わるよう心がける。以心伝心ではなく、論理的に話す。

絵本、童話、百科辞典、国語辞典、新聞などに親子で親しみ、文章語の世界、内言(頭の中で生じる思考の道具としての言語)の世界を豊富にする。


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